作者は定年退職後に参加した中国観光ツアーをきっかけに、厳しい風土とそこに生きる人々の暮らしに魅了され中国取材を決意する。 まず、ツアーで行った黄土高原をテーマに2001年から2005年まで甘粛省、陝西省、山西省などを車でまわり、厳しい半乾燥地帯で暮らす農民たちの生活を「黄土高原の村」としてまとめあげた。また、この取材中に食べた米が中国東北産だったことから、同時代に生きる残留孤児たちの人生に思いがいたり、もうひとつのテーマがひらめく。そして2004年から2005年にかけて満蒙開拓団が入植した痕跡が残る黒竜江省を車で移動しながら、現在の風景から往時をみつめた「満蒙開拓の村」を完成させた。 いずれも、現在の日本人に問いかけるもので、私たちが忘れてしまった素朴な農村の暮らしや人々の心、そして私たちが決して忘れてはならない戦争の傷跡という相反する難しいテーマを、作者は自分の人生と重ね合わせながら、気負うことなく巧みに描きだしている。また、一人の民間人が、これだけ濃密な仕事をしたという事実にも圧倒される。ドキュメンタリーとしても内的な表現としても見応えのある作品となっている。
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