東日本大震災、2011年3月11日に起こったこの未曾有の大災害は写真界にも大きな影響を与えた。多くの写真が失われた一方で、膨大な写真が撮られ続けた。 作者は震災から1ヶ月後の4月、初めて被災地の釜石市に赴いた。カメラを取り出すこともできず眼下に広がる町を見つめる作者に、地元の人が「となりの大槌町はもっとひどい。広島に落ちた原爆が落ちたみたいだよ」と教えてくれた。広島出身の作者はその表現に驚き、大槌町へ向かった。ここで初めてシャッターを切った。 受賞作「Remembrance」は、被災地復興のためニコンサロンで2012年2月から開催された連続企画展「Remembrance 3.11」が発端となっている。作者はこの展覧会にあわせ、大槌町をはじめとした三陸や阿武隈の被災地域を撮影した冊子「Remembrance」第1号から第4号を発刊した。その後も展覧会での発表とは別に、できるだけオンタイムに、より遠くまで届き未来に残るものとして、冊子の刊行を続けていくことにした。2012年に第1号から第17号、2013年に第18号から第41号を刊行し、この作業は一応の終了を見た。 「Remembrance」は、「記憶」や「想起」を意味する。幾度も被災地を訪れ、撮影し、発表する、この作業を重ね、継続していくことは、作者自身の体験を深め、過去を再確認する作業でもあった。作品は被災地域の風景だけでなく、日本国内の様々な地域、そして火山や漁、遺跡など、自然と人間の営みとの関わりを意識するものでもある。もともと写真を撮り続ける中で、自然と人間とが接する領域を見つめてきた作者にとって当然の帰結であったのかもしれない。 この作品から我々は、作者の思索の過程をも追体験することができるのではないだろうか。
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