20代の頃はアジアを主に旅してきた作者は、それまでほとんど訪れたことのなかった日本の聖なる地を旅したいという想いが強くなり、30代の半ばからは一変して頻繁に日本を旅するようになる。 アジアの各地で触れた信仰や神事のなかに、古くから受け継がれた「けっして揺るがないもの」を目にした作者は、過去の時間、過去の人、そして遠い日本の姿を写真に撮れないかと考え始める。 今回の作品は、作者が日本全国の聖地を渡り歩き、各地に古くから伝わる祭りや神事を記録したもので、日本人の心の奥底に内在する原風景を感じることができる。 沖縄県宮古島で悪霊払いの伝統行事に現れる来訪神「パーントゥ」や、作者が生まれ育った長野県諏訪で千数百年前から行われている御柱祭など、作者は祭りを通じて、古代人の意思や感情が現代を生きる人々の精神に脈々と受け継がれていること、そしてそれらはアジアで感じたものと同質であることに気付く。 われわれは一艘の舟に乗り、遠い過去から未来に向かう航海の途中にあるのかもしれないと、作者はこの作品を通じて投げかけている。
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