作者の奥山さんは、25歳のときに、北海道の大自然の中で自給自足で暮らす井上弁造さんと出会いました。彼の暮らしぶりや生き方に触れ、彼が2012年に92歳で亡くなったのちも現在まで、26年にわたり彼の生きざまを写真で伝え続けています。
2018年に1作目の『BENZO 弁造』、続いて翌年には『庭とエスキース』にまとめあげ、この『BENZO ESQUISSES 1920-2012』は3作目となります。
様々な事情により絵描きへの夢は叶わなくても一生絵を描き続けた弁造さん。この写真集は、長年にわたり弁造さんと向き合ってきた作者が、彼の死後、遺されていた膨大なエスキース(習作)を通して、人間が生きるということがどういうことかを真摯に見つめようとした作品です。
本作は、北海道に暮らす井上弁造さんに出会った作者が、その生き方に感銘を受け、長年にわたり取材したドキュメンタリーです。一見、画集のようにも見えますが、絵を単に複写しているわけではなく、弁造さんが暮らしていた丸太小屋の周りの植物などを絵に重ね、またそれらを影としても写し込んでいます。弁造さんが遺した絵を通して、彼の心情や思いを読み解いていこうとする斬新な表現が高く評価されました。写真集には詩情豊かでポエジーな雰囲気が漂います。作者の弁造さんへの愛情あふれる温かいまなざしが感じられる作品です。
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