林忠彦賞

 

 

第31回 新田 樹/写真集・写真展「Sakhalin」

「Sakhalin」

李富子さん ブイコフ(旧内淵)2017

 

新田 樹/写真集・写真展「Sakhalin」


 ロシア・サハリン(樺太)、この島の北緯50度から南半分は、日露戦争後の1905年から1945年8月の第二次世界大戦終結までの40年間、日本の統治下にあった。1945年8月のソ連参戦時の緊急疎開と翌年に始まる引き揚げで、そこで暮らしていた日本人の多くはこの地を後にした。一方で多くの朝鮮半島出身者やその配偶者であった日本人らは、ソ連が支配したこの地を離れることはかなわなかった。
 戦後50年を過ぎた1996年、写真家としての最初の地としてロシアを旅していた作者は、サハリンのユジノサハリンスク(豊原)で日本語を話す女性たちと出会い、サハリンとそこに生きる残留韓国・朝鮮人やその配偶者であった日本人がいることを知った。しかしその時はまだ、これらの人々と向き合う自信が持てなかった。
 14年後の2010年、作者はこうした人々の現実を残したいと決意を固めた。最後の生き残りともいうべき人たちの家を何度も訪ね、丁寧に取材し、その生活や周りの様子をカメラにおさめていった。そしてその成果を、2015年の写真展「サハリン」で発表、その後も取材を続け、2022年の写真展「続サハリン」と写真集『Sakhalin』にまとめあげた。
 遠い北方の地で今なお日本語を話す人々。凍てつく寒さの中でつつましく生きる彼女らの人生に寄り添いながら撮影した作品には静かな時間が流れている。歴史に翻弄されながらもたくましく生き抜いてきた一人一人の人生の重みが伝わってくる。
 本作品は、戦争の歴史に翻弄された人々の姿が写真の行間から浮かび上がるドキュメンタリーの仕事として、高く評価された。

新田 樹(にった たつる) 新田 樹(にった たつる)

1967年 福島県出身
東京工芸大学工学部卒業後、麻布スタジオ入社
1991年 半沢事務所入社 半沢克夫氏に師事
1996年 独立

  • エバレット・ケネディ・ブラウン「Umui」
  • 王露     「Frozen are the Winds of Time」
  • キセキ ミチコ「VOICE 香港2019」
  • 高橋 智史  「男鹿ー受け継がれしものたちー」
  • 高橋 万里子 「スーベニア」
  • 鶴巻 育子  「芝生のイルカ」
  • 水島 大介  「おじいちゃんの写真集」

大石 芳野 <選考委員長> 写真家
笠原 美智子  (公財)石橋財団アーティゾン美術館副館長
河野 和典 編集者、(公社)日本写真協会出版広報委員
小林 紀晴 写真家
有田 順一 周南市美術博物館館長

(敬称略・五十音順)

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