「私の知らない母」は作者の母が写る過去の写真と、作者が写る(または撮影した)現在の写真とをコラージュした写真集である。1998年母が亡くなり、作者は伯母の家で母の写る百枚ほどの家族写真と出会った。そこで作者は戦前の朝鮮、台湾、満州で生きる母の姿と今現在その写真を見ている自分との間にある「時空の断層」に気づかされた。以後 2001年から、作者は母の生きた場所へ赴き撮影を続け、写真を撮り、過去の家族写真と自らが集めた現地の写真、さらに自分自身の写った写真を重ね交錯させ、新しい写真を制作し発表した。この旅は10年続き、母の死から21年たった2019年写真集として発表した。 過去と現在という時空間を縦横無尽に一画面に表現したフォトコラージュであり、なおかつ一家族の歴史がそのまま日本の動乱の現代史をたどるドキュメンタリーでもある、いわば「時間と空間の芸術」といわれる写真の到達点として、選考委員会でも高く評価された。
|