戦前、大勢の日本人がフィリピンへ移民として渡り、フィリピン人女性と結婚、定住した。しかし第二次世界大戦中、彼らの多くは日本軍の軍属や通訳となって日本のために働いた。そのためアメリカやフィリピン人ゲリラの攻撃の的となり、戦死したり日本へ戻っていく者も多かった。 戦後の強い反日感情の中、日系2世は日本人であることを隠して暮らしてきた。学校へ行けなかった人も多く、貧しい生活を送りながら戦後を生き延びてきた。1980年代頃になって漸く反日感情も薄れ、彼らは日本人と名乗れるようになったが、父親が戦死したり日本へ帰国したため日本人であることを証明するのは難しく、実際は日本人であるにも関わらず日本国籍をもたない人が大多数である。 作者は2008年偶然フィリピンでこのことを知り、翌年から7回にわたってフィリピンの残留日本人(日系2世)を取材、記録した。各地に暮らす彼らを訪ね、現在の境遇や暮らしぶりを直接目にし、話を聞き取りながら、ブローニー6×6のモノクロフィルムにより撮影を行った。 戦後70年となった昨年、日本ではさまざまな特集が組まれたが、フィリピン残留日本人についてはほとんど知られてない。作者はこの年に写真集を出すことによって人々の目に留まり日系人の国籍回復の願いがかなえられるかもしれないと、クラウドファンディングにより資金を募ってこの写真集を出版した。 残留日本人ひとりひとりと真摯に向き合い記録を重ねた取材と、それをしっかりとした写真で表現したドキュメンタリーとして、見事な作品である。
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